カップルにもしもの10のお題「02」 もしも片方の幼い頃にタイムスリップしたら (「ハロウィン・パーティ」シリーズ志筑×七夜) |
「・・・・・・あーれー??」 なんて。間抜けな声を出してみたり。 何がなにやらわからない。 ふらふらとあたりを見渡して、ただただぼんやりと立ち尽くす。 周りに見えるのは、ひたすら簡素で物の無い部屋。 確かに見覚えのあるそれ。でも、私が知っている部屋とは若干異なってる、ような? ・・・ん、と。ここ、どこ??・・・志筑の部屋・・・、でいいのかな? でも、なんだかおいてある荷物が・・・荷物が・・・?? くるくると見回していた私の目に留まったのは、シンプルな机の上に乗った本。 どうやら教科書らしいその本のタイトルは。 『小学一年生・めばえ』 ぐらっ。足元が揺れた。 ・・・えーと。め、眩暈がするんですが?しょ、小学一年生?? ええっと。ええっと。・・・私、確か学校帰りに志筑に部屋に寄ってたと思ったんだけど。 ぐるぐる回る頭を抱えて、こうなる前の状況を必死に思い出そうとうんうん唸ってみる。 でもやっぱりさっぱりどうしてこんなことになっているのか、思い当たる節は無かった。 「あんた、誰?」 「ッ!?」 突然。背後から声がした。少し高めな、おそらく男の子の声。 おそらく私の後ろにあるだろう扉から入ってきたんだろうけど。 まったく気配が無かった。 そのお陰で私の心臓は今正に口から飛び出るかって勢いで、跳ねる。 び、びび・・・吃驚したーッ! 誰って、いきなり声をかけてくるそっちこそ誰さ!? がうっと振り向いた先にいたのは―――・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・し・・・・・ししし志筑??」 幾分・・否、かなり大分ちっこいけど。物凄くミニマムだけど。 不機嫌そうに私を見据えてくるその顔は、確かに志筑の面影がばっちりだった。 な、ななななにーーーッ!?何がどうなってこうなって・・・否、寧ろ私は誰ーッ!? うわぁ、志筑が私の腰ぐらいの背しかないってどういうことーッ!! 混乱する私をよそに、そのミニ志筑は、私の横をすっと通り過ぎ。 机の上に手にしていた鞄をどさりと放り投げる。 「俺は、ししし志筑なんて名前じゃない。・・・で。誰?」 瞬間。なんていったらいいのかわからなかった。 でも、小学一年生にしてこの無愛想ぐあい。 なんていうか。ちみっちゃくても・・・志筑だぁ、なんて変なところで感心して。 思わず噴出していた。 ミニ志筑が僅かに眇めた目で、私を見据える。 「何か、おかしい?」 物凄く、冷めた言い様。 とても小学生が発するとは思えないようなその言葉の雰囲気に。 私の笑いが納まる。 「・・・えっと。・・・連、君でいいんだよ、ね?・・・ごめんね、いきなり笑ったりして。」 流石に笑い出したのは不味かったか。と思いながら、ぺこっと頭を下げた。 「別に、構わない。それより、誰?なんで此処にいるの?」 ミニ志筑が、シンプルな机の、これまたシンプルな椅子に腰掛け。 回転式のそれをくるっと廻して、私に向き直った。 「うーん。なんでといわれても困るんだけど。・・・誰、の方は答えられるかな。私は黒河七夜と言います。よろしくね。」 「・・・黒河、七夜?」 「そう。ええっと、連君は、一人でお留守番?」 なんとなく。この家の中に人の気配を感じなくて。ふと訊いてみた。 すると。ミニ志筑は実に不審気に私を見てきて。 「・・・それ訊いてどうするわけ?まさかとは思うけど、窃盗犯?」 なんてことを、のたまった。 ・・・せ??・・・せ、窃盗犯ーーーっ!? あ、あのねっ、か弱い女子高生の私のどこをどうみたらそんな悪人に見えるかな!? 些かむうっとし。ミニ志筑を見たら。 「・・・冗談。・・・どう見たってありえないよな。」 実に大人びた表情で、そんなことをいう。 ・・・なんだか。なんだか・・・ミニ志筑に翻弄されている気がするのは・・・物凄く気のせいだよね。 だって相手は小学一年生。それこそありえんでしょう、私。 なんて思いながら。不覚にもしっかりおろおろしちゃってた。 無意味に腕をぱたぱたしている私に、志筑のあきれたような視線。 「一人だよ。留守番中。」 「え・・・ああ。そ、そうなの。」 あっさりと答えられて、拍子抜けする。私は動かしていた腕をぴたりと止めて、何だか間の持たない雰囲気に辺りにふらふらと視線を彷徨わせていた。 そして。ふと目に映ったのは、壁にかけられた実にシンプルな丸いアナログ時計。 ん?て、あれ。 今もう、午後6:00過ぎてるの、に? 一人でお留守番、て。ご飯どうするんだろう? 急に気になって、時計からミニ志筑に顔を向ければ。ばっちり目があった。 う、わぁ。やっぱり志筑のこの姿は・・・心臓に悪い・・・。 なんだかこう、守ってあげたくなるというか。傍に居てあげたくなるというか・・・。 抱きしめたくなると、いうか。 でも。もちろんそんなことを行動に移せるわけも無く。私はさっきの質問をミニ志筑にする。 「・・・連君、ご飯は?」 「下に用意してある。」 志筑はちょっと窺うように。でもまっすぐに私を見つめ返してきていた。 でっかい志筑の面影がしっかり残る、その目元。 「ご飯も・・・一人?」 「そう。」 再び質問した私に対して、実に簡潔な志筑の答えだった。 あ。どうしよう。なんだかちょっと胸が痛いぞ? 私は、何故かきゅうっする自分の胸元に手を当てながら、俯く。 「・・・そっか、連君一人でお夕飯か・・・寂しいね。」 「別に。」 本当に、何でも無いことのようにミニ志筑が言う。 ・・・独りが、寂しくないの?そう思うのが、寂しいよ・・・。 でも、そんなこと、とてもミニ志筑には言えなくて。 私は堪らずに、ちっちゃい志筑の体をぎゅうっと抱きしめていた。 いつもならありえない。志筑が私の腕の中にすっぽり納まるなんて。 「・・・なに、す・・・。」 呆然とした風に、ミニ志筑が呟く。 でもそんなこと構わずに、私はぎゅうぎゅうミニ志筑を抱きしめ続ける。 そして。しばらくして。私の背に、小さな志筑の手が廻されたのがわかった。 ミニ志筑が私を受け入れてくれたような気がしてすごく嬉しくなる。 背中と腕の中に感じる志筑の熱。 ・・・とても心地よいその感触に、いつしか私は意識が遠のいていくのを感じた。 「七夜、・・・七夜。」 あれー、低くて心地良い声。何故かゆらゆらと私の体が揺れている。 うーん。気持いいなぁ。 「・・・いい加減に起きないと、襲うぞ。」 少し、かすれたような熱っぽい声が、耳元でした。ざわりと体の奥が騒ぐ。 襲う・・・襲う??・・・はっ!! パッチリと。しっかりしゃっきり目が・・・覚めた。 そして、覚めた目に映ったのは。 ちゃんと、私の知ってるいつもの志筑、だった。 「・・・志筑?」 びっくり眼で志筑を見上げたら、志筑の眉が僅かに上がった。 「どうした?」 そっと。心配そうに尋ねてくる志筑は、やっぱりいつもの志筑で。 今。私がいるのは、志筑のベッドの上で。 どうやら私はうたた寝していたらしい。 そういえば。電話が鳴って。志筑が部屋から出て行って。 なかなか戻ってこない志筑を待ってるうちに、眠くなったような・・・。 ということは。 ・・・あれ・・・夢、だったんだぁ。ミニ志筑。まあ、当たり前だよね。 ・・・でも、リアルだったなぁ・・・。 「七夜?」 志筑が窺うようにそっと私の名前を呼んで。頬に触れてくる。 その手の大きさと暖かさ。 えっと。うわ・・・どうしよう。でっかい志筑だ・・・。 ものすっごく・・・抱きつきたい。 なんてことを思ったら。 私は衝動的に志筑の首に手を伸ばし。気づいた時にはぎゅうっと抱きついていた。 私の重みを受けて、ベッドについていた志筑の腕がぎしっとスプリングを軋ませる。 ちょっと驚いてるらしい志筑には構わずに。 私は志筑の胸に、自分の頬を押し付ける。 「志筑、志筑・・・あのね・・・ぎゅって・・・して?」 おそらく物凄く驚いたのであろう志筑の動きが、固まったのを感じた。 んん?なぁに。いつもなら何も言わなくても抱きしめてくるくせに。 実は志筑ってば押しに弱いんだよね、なんて思いながら緩む頬を志筑の胸で隠した。 そのままじっと志筑の腕を待つ。 すると。 「唐突だな。」 志筑が一つ溜息を落として。 私をベッドから抱き起こすと同時に、ぎゅっと抱きしめてくれた。 あ。ちっちゃい志筑をぎゅってした時と、同じ志筑の匂い。 志筑をぎゅっとするのも。志筑にぎゅってしてもらうのも・・・好き。 さっきのは、夢・・・それはわかってるけど。 でもなんとなく。志筑の子供の頃って・・・あの夢どおりだったんじゃないかと、思った。 あのね、志筑はもう独りじゃないよ?私が一緒にいるから。 私がいなくなったら寂しいって思ってくれるくらい。 私は志筑と一緒に居たい。 「・・・志筑、好き。」 小さく囁いた言葉。でも、志筑にはちゃんと聞こえていたらしい。 私を抱きしめてくれる志筑の腕に、ぎゅっと力が籠もったのを感じた。 〜Fin〜 |
ハロウィン・パーティ INDEX |
TOP ‖ NOVEL |
Copyright (C) 2003-2006 kuno_san2000 All rights reserved. |