カップルにもしもの10のお題「03」 もしも魔法が使えたら (「ハロウィン・パーティ」シリーズ志筑×七夜) |
春休みも残り僅かな日の夕方。 私はまたもや志筑の家に・・・正確には。志筑の家の、志筑の部屋の・・・志筑のベッドの中に、いたりした。 んん、眠い、かもしれない。 うとうとと。背後から志筑に抱きしめられたまま船を漕ぐ、私。 ああ、でもそろそろ帰らないと、いけなくて。 ・・・うん。帰らなくちゃ。 「んー、志筑。私、そろそろ帰る。」 私の腰に回ってた志筑の腕を解きながら、なんとか目を擦りつつごそごそと布団から抜け出そうと試みる。 というか。試みた、んだけど。 気がつけば。ばほっという音とともに何故か私の体は再び布団の中に沈みこんでいた。 ・・・あ、あれ?私、寝ぼけてる??・・・わけじゃ、なくってっ。 ああ、もう。志筑ってばっ! がっと。背後にいるはずの志筑を振り返る。 そう。原因は・・・しっかり私の腰にまきついている志筑の腕、だった。 私が布団から抜け出そうとした時に、解いたはずの志筑の腕が再び私の腰に回ってたらしい。 「志筑っ。何ふざけて・・・て。んん・・・っ!?」 しかも。抗議しようと開いた唇に、上半身だけを起こした志筑が思いっきり口付けてきた。 閉じる間もなく口の中に熱くて柔らかな感触。 あ、ちょっと、な、何!?私はもう、帰るんだってばさっ。 「ちょ、ちょっと・・・志筑・・・っ」 口の中にあった志筑の熱が離れたタイミングで、ぐいぐいと志筑の肩を必死に押し返してみる。 なのに志筑ときたら平然と、しかもちょっと意地の悪い笑みまで浮かべてて。 「どうした?」 や、どうした、じゃなくてっ! 「今日はもうしない、よ?」 「わかってる。」 ああああ、わかってないーーーっ! わかってるならどうして胸、触ろうとするのっ。 駄目だってっ。もう私はいっぱいいっぱい・・・だっていってるのにーーーっ! あああああ、もうっ!駄目って思ってる、のに。 「んんっ。や、どこ・・・触って・・・っ。」 だけど。意志と反して口から出たのは甘ったるい私の、声。 だって。志筑の手が私の足の間に入り込んできてて。 さっきまで志筑を受け入れてたところに、触れて、きて。 「七夜・・・。」 志筑の、低くて少しかすれた声。 それが私の首筋を甘くくすぐったりしたら。もう。抵抗できない。 「し・・・、や・・・しづ、き・・・」 「嫌?」 ぎゅっと志筑の肩に抱きつく私の耳元で、志筑が笑いを含んだ声で囁く。 一気に、頬が熱くなった。 ああああっ!もうっ!な、流されてるっ。流されてるよ、私! 「し、志筑のあほんだらっ。」 抱きついてた手をあげて、志筑の髪をきゅっと強めに引っ張る。 志筑が僅かに笑い声を立てて、すっと私の体を離した。 「帰るんだったら送ってく。」 ・・・は、初めから素直にそういってくれればいいのにっ! おそらく真っ赤になってるだろう頬を意識しながら、むうっと志筑を見れば。 志筑はさっさとベッドから身を滑り降ろしていた。 う、わわっ!!! 志筑の広い背中が目に飛び込んできて。慌ててぱっと下を向く。 だ、だって。志筑ってば・・・何にも着てないんだもん。 そりゃ。もう今更かもだけど。全部見ちゃってるし。見られっちゃってるけどっ! でも。やっぱり恥ずかしいというか。なんというか、その・・・ううー。 「・・・七夜?」 うんうんとシーツを見つめつつ唸っていたら。ぽんと軽く頭を叩かれた。 はっとして顔を上げたら。ジーンズをはいて。何気なくシャツを羽織った志筑。 着替えるの相変わらず早っ。 思わずその早業に感心して目をぱちぱちさせる私の前で。 さっき私が引っ張ったせいかやや乱れ気味な髪を片手で軽くかきあげて、志筑が静かに笑ってる。 その姿を見るにつけて。 こう、常日頃から思っていた疑問がむくむくと私の中で湧き上がってきていた。 ―――こうしてると・・・志筑・・・本当に私と同じ年なのか・・・疑いたくなってくるんだよねぇ。 多分一緒に歩いていても絶対同じ年に見られてないと思うし。 うーん。それに。実はずっと聞きそびれてたこともあって。私、未だに志筑の誕生日教えてもらってないんだよね。 あ。今、ひょっとしたら絶好の機会かも。うん。聞いてみよっかな。 「あのさ、志筑。」 ベッドの上。ずいっと私が身を乗り出す。 すると。じっと黙り込んでいた私が急に話しだした為か、志筑がちょっと片眉を上げてなんだ、ていうような表情をする。 私は、構わずに更にずいっとベッドの縁まで身を乗り出た。 「―――志筑の誕生日って、いつ?」 ベッドに両手をついて。立ったままの志筑の方へ伸び上がりながら尋ねる。 「誕生日?」 志筑が目を眇めて、ぽつりと呟いた。 ・・・ん、んん?あ、れ?・・・なんとなく志筑・・・い、言いたくなさそう、な? こくりと、喉が鳴る。でも。そのままじっと志筑を見てると。 志筑が諦めたように一つ、溜息を落とした。 「・・・10月31日。」 ぼそりっと、言う。 一瞬、聞き逃しそうになって。だけど。どうにか聞き逃さずにすんで。 「え゛!?志筑の誕生日ってハロウィンだったの!!・・・うきゃ・・・っ」 勢い余った私はついていた手を滑らせて、ベッドから転げ落ちそうになっていた。 だけど。目の前にいた志筑が手を伸ばしてくれて。 ベッドから落ちることなく、私はしっかり志筑の腕の中におさまった。 ああ、吃驚した。や、落ちそうになったこともだけど。 それ以上に、志筑の誕生日、ハロウィンだったとは・・・。 志筑の腕の中から体を起こして、まじまじと志筑を見つめる。 「はー、そうなんだ。なんだかちょっとミステリアスな感じ。」 「・・・そうか?」 まるでわからないっていうような感じの志筑がおもしろくて、思わず笑い声が漏れた。 「うん。・・・あっ!ほら、あれだよね、何だか魔法とか使えそう!・・・だから、魔女・・・は、違うか・・・。えっと・・・ま、まおとこ?」 「違う。」 志筑が思いっきり嫌そうに速攻で否定する。 さ、流石に間男は・・・まずかったか。 あはは、と笑って誤魔化す私を志筑が呆れたように見ていた。 「その場合は、魔法使いだろ。」 「あ、そっか。魔法使いか。うん、だね。・・・志筑は、さ。魔法が使えたら何がしたい?」 なんだか。志筑のことをまた一つ知ることができたんだな、て思ったら。楽しくて仕方ない。 へろへろと笑いつつ尋ねたら。 「別に。・・・大抵のことは魔法なんてものに頼らなくても自力でどうにかできるだろ。」 ちょっと考えた後、肩を竦めて志筑が答えてくれた。 「ええっ。そうかなぁ。・・・ああ、うん。でも、志筑はそうかもね。」 志筑らしいといえば、志筑らしい答えに妙に納得する。 確かに志筑なら、自力でなんとかしそうだもんな、うん。 「七夜は?」 こくこくと一人頷いていたら。今度は志筑から逆に尋ねられた。 んん?私? 「そうだなぁ。・・・うーん。」 しばし考え込んで。 「志筑が何を考えているのか詳細に事細かに隅から隅まで一度でいいから知りたい!」 思わず。握りこぶしなんて・・・握っちゃったり。 志筑のこと、大分わかるようになったかなあ、なんて思ったりはしてるんだけど。 それでもやっぱりまだまだだな、と思うこともしばしばで。 たとえば、今日の誕生日のこととかも。普通ならもうとっくにこの辺は知ってるべきことだし。 「・・・・・・。」 ぐっと拳を突き出した私を、志筑が無言のままじっと見つめていた。 「え?駄目だった?」 ふうと力を抜いて。へたっとベッドに座り込む。 まあ。幾らなんでも何を考えているかが全部人に筒抜けなんて状態は、私も避けたい事態、かも。 うーん。やっぱり駄目だったか。 ベッドに沈み込んでしおしおと考える。と。 「―――今、オレが何を考えているかだったら教えてやれるけどな。」 志筑からの意外な提案だった。 「ホント?教えて!」 ぱっと顔を上げて――――。そしたら。なんだか志筑が、にやって感じに笑ってて。 ん?あれ?? 笑顔のまま固まる私の頬に、志筑の大きな手が触れた。 「―――七夜の頬に触れて。」 うん。触れて? 「その唇を割り開いて。」 んん? 「舌を差し入れて満足するまで味わう。」 噛み付くみたいな、志筑のキス。 んんんーーーーっ!? 「も・・・、しづ、きっ、これじゃ私いつまで経っても帰れないよ!」 「はいはい。わかった、わかった。」 ばたばたと志筑の腕の中でもがきながら。 唇の離れた隙に必死に抗議した私に、笑いながら志筑が軽くついばむようなキスを落とす。 本気じゃない、じゃれあいみたいな触れ合い。これが結構嫌じゃなかったりするから・・・困る。 「うー、もう。」 恥ずかしくて、ぷいっと横を向く。 志筑が私の隣に腰を下ろした。ぎしりとベッドが軋み、スプリングが沈み込む。 「七夜の誕生日は、七月七日だろ?」 何気なく、さらりと言われた。 ・・・あれ?・・・誕生、日?合ってる、けど。え、だって、私・・・言ってないよね、確か。 「え?なんでわかるの?」 困惑しつつぱっと振り向くと、志筑が私を見て苦笑していた。 「去年の七月七日に叶たちと教室で騒いでたから。」 「あ、プレゼント貰ってた時。ああ、それでかぁ。吃驚した。」 去年の七月七日。確かに、由紀たちにプレゼント貰ってた時に騒いで気が、する。 でもそんなに騒がしかったのか・・・。ああああ、ひょっとして迷惑だったかな。 「えっと。そんなに騒がしかった?ごめん、自分じゃわからないもんなんだ、これが。」 「いや・・・、普通だったんじゃないか。そんなに酷く騒いでたわけじゃないだろ。」 へろっと笑いながら言ったら。苦笑した志筑に否定された。 ん?でも、志筑は気がついたんだよね?あれ? 「オレは・・・七夜のことを見てたから気づいた。」 首を傾げた私に、志筑がやっぱり苦笑しながら言って。 瞬間。さっきの比じゃないってくらい、一気にごおっと頬が熱くなった。 ふふふふふ、不意打ち過ぎるよっ、志筑!!! ああああ、もうっ!やられた!!きょ、今日も完敗だ! ぶすぶすと焦げ付く頭を、ばふっと布団に押し付ける。 頭上から、志筑が漏らす低い笑い声が聞こえた。 「ああああ、もうっ!志筑なんか・・・っ、志筑なんか・・・・・・嫌いじゃ、ないんだから。」 布団越しにややくぐもった私の、声。 恥ずかしくて顔を上げられない私の頭に、志筑の手が乗って。 「――――七夜、好きだ。」 おそらく身をかがめてきたのであろう志筑に、耳元で囁かれた。 やっぱり、志筑。絶対年、誤魔化してるでしょ! だって。もう。そんなにさらっと余裕で囁くなんて。 ――――うう。やっぱり、敵わない。 でも。今日は志筑のことを一つ知ることができたから・・・良しと・・・しとく。 〜Fin〜 |
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