01. 七夜、相談する


「その、ね。この頃。志筑が、怖い・・・んだけど。」

私が相談を持ちかけたのは。めっきり寒くなってきた11月下旬。
放課後。駅前のファーストフード店。程ほどの客入り。

通りに面した窓際の4人席を陣取り、私と、同じクラスの叶 由紀(カノウ ユキ)はポテトを頬張りながらいつものように顔を突合わせていた。


「ええ?・・・なんで?別に志筑クン、機嫌悪そうには見えなかったけど?」

むぐむぐと、ポテトを租借しながら。
アーモンド形の眼を僅かに見張って、由紀が不思議そうに返してくる。
栗色のふわふわの髪を揺らしながら。
小首をかしげてこちらを見てくるその姿は、文句なしに美少女だ。

・・・・や。なんというか。
志筑、不機嫌とか。そういうことじゃ、なくて。
ううう。なんていったらいいのかな。

「んん、と。そういう訳じゃ、なくて。ん・・・」

かなり。かなり、云い淀む私。

「あ。ひょっとして迫られちゃってる?」

ぶっ!ぐ、げほごほげほ・・・・・

飲み込もうとしていたポテトが喉に詰まる。

む、咽たよ。由紀、そんなすぱっと。

あまりの苦しさに涙をなじませた眼で。
恨めしげに由紀を見上げれば。

「ははあ。ま、付き合ってるんだからねぇ。」

そ、そんな平然と。
つ、冷たい。
相談のし甲斐がなさすぎよぅ。

そりゃ。志筑とのお付き合いは、私が自分で決めたんだし?
自分で決めた以上は、自分の責任だけど。

「だって。七夜が志筑クンを選んだんでしょ。私は反対だったわよ?」

うう。やっぱそこですか。
そう。志筑を選んだときに、由紀にはしっかりはっきり忠告されてた。
苦労するわよって。
でも。私は、志筑を選んだ。あのハロウィンの夜に。

そして、晴れて志筑の彼女となり。
そろそろ一ヶ月になろうとしている。

「で?実際のところ。どこまでいってるの?」

何気なく。ほんっとになんでもないことのように。
さらっと由紀が聞いてくる。

・・・そんなこと。さらっと答えられまセン。

「・・・・ノーコメント。」

「ふうん。その様子じゃ、べろちゅーくらいか。」

っ!?な、なんでわかるかな!!

頬がほかほかと熱くなってくる。由紀、鋭い。というか。私が表情読まれやす過ぎなのか?

「七夜ってば、わかりやすすぎ。」

ふー、と呆れたような溜息。私は思っていたことを見透かされて正直ぎょっとする。

「あのね、志筑くんが七夜とそういう関係になりたいと思うのも、まあわからなくないのよ?」

「え?・・・・なんで??」

「だって、入学してから大分立つけど。志筑クン、彼女作ってなかったじゃない?それってつまり、入学したときから七夜を見てた、てことでしょ?」

「そ、そうなの・・・・かな?」

「そうなの。そうすると、健全な男子高校生としては禁欲生活も限界なんじゃないの?」

「!?・・・・き、禁欲ってぇ・・・・」

ああ、なんだか由紀の言動が過激になってる気がする。
私は、あまりに直接的な言葉にずるずるとテーブルに顔を沈み込ませていた。

「でも七夜、あんまり流されちゃ、ダメよ?初めてが成り行きで、なんて嫌でしょ?」

「ううー・・・・」

たしかに、それは嫌かも。でも、それ以前に。キス以上なんて。
私無理っぽいんだけど?

だって、志筑に触られるだけで心臓ばくばくするんだもん。
キス、なんてしたらもう倒れそう、だし。

「ま。成り行きが嫌なら、自分でしっかり覚悟を決めとくことね。」

「覚悟ぉ?」

「そ。もうすぐクリスマスだし。恋人たちが雰囲気を盛り上げるにはいいイベントよ?」

「うわ。そういえばクリスマスかぁ・・・・。てか、また学校行事あるし。」

「あー、そうねぇ。でも、今回は七夜が役員にならないようにしたげるから、しっかりがんばってね。」

にっこりと微笑みながら極上の笑顔で告げる由紀。

が、がんばるって・・・何を?

とは、怖くて聞けなかった――。


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