10. メリー・クリスマス |
んん?なんか、眩しい・・・・。 何?・・・うー、私の部屋、こんなに陽が入ってきたっけぇ? 眠りがだんだん浅くなってくるのを感じる。 しばらく上手く働かない頭と格闘した後。 私は漸く目を開けていた。 どうやら瞼を刺激する光により、深い眠りから起こされたらしい。 目の前に広がるシンプルな、部屋。 ―――どこ?ここ?それになんか、身体が、重い。 横を向いて寝ている私の上に、何かずっしりした温かいものが乗っている。 「・・・・・シン?」 あれ?でも、いっつも私の足元にいるはずなんだけど。 今日はどうして、こんなに重いのかなぁ。 乗っているものが何か見ようと体の向きを、かえた。 「―――シンって、誰だ?」 その途端。不機嫌そうな低い声が、聞こえた。 ・・・・は?・・・・えっと。・・・・・・・し、しづ、き!? 昨日の出来事を、一気に思い出す。 う、わ。そうだ、ここ志筑の家だった。 ええっと。じゃあ、さっき重かったのって。志筑の腕が私を抱きしめてたからかぁ・・・。 おろおろおろ。動揺していると、あっというまに志筑に押さえ込まれていた。 「え、え・・・あっと・・・・」 不機嫌な顔をした志筑が私の両脇に手をついて、見下ろしてきている。 「シンって、誰だ?」 え、えっと。シン?・・・・シンは。 「猫。」 そう。シンは、家の飼い猫だ。 あの時、河を流されていた子猫は今、家ですくすく育っている。 「・・・・猫?」 志筑が気の抜けた声で呟いた。 「そう。・・・・あのときの、子猫だよ。うちにいるの。」 上から見下ろしてくる志筑に笑いかける。 すると「猫・・・」と再び呟いた志筑が、私の上に覆いかぶさってきた。 お、重!志筑、重い!! 志筑の体重で、息がつまる。 べしべし背中をはたくと漸く志筑が私の上からどいた。 そのままのっそりとベッドの上に起き上がる。 んん?・・・志筑、なんで笑ってるの? おかしそうに笑う志筑。 私も、とりあえず身を起こし。ベッドの上に座り込んだ。 「猫か・・・・。参るな、猫にまで嫉妬するなんて・・・」 私の見ている前で、志筑が自嘲気味に呟く。 「・・・・・・や、やだな、志筑。・・・何云ってるの、もう。」 志筑の言葉に、頬が熱くなった。 両手で顔を覆うようにしている私に向けて、笑いを収めた志筑が意味あり気な視線を、投げてきた。 んん?何? 「七夜、手」 ぼそりと、志筑が言う。 とりあえず。手の甲を上にして手をだした。 差し出した腕を、志筑に掴まれる。 掴まれたまま、掌を上に向けられた。 あ。逆でしたか。 「ほら。」 志筑の短い言葉と共に、掌の上に、何かが乗せられる。 やや、冷たい感触。陽の光にきらりと反射する。 私は、掌の上にあるその物体を信じられない面持ちで凝視した。 「―――ええっと。・・・これは、指輪、ですか?」 「それ以外に見えるか?」 私の言葉に、志筑が苦笑する。 「や、見えないですが。」 「じゃ、そうなんだろ。」 「し、志筑のキャラじゃない。」 「・・・・オレはどんなキャラだ。」 「あ、あははは。・・・・ええっと。・・・ありがと。」 「どういたしまして。」 私は、掌の指輪を握りこんだ。 どうしよう。ものすごく。うれしい。 あ。でも。私・・・・・ 「あのね。私も、プレゼント用意したんだけどね。後で、渡すね。」 そう。私は志筑へのプレゼントを、家に置いてきてしまっていた。 うう。申し訳ない。 すまなそうに、志筑を見つめる。 すると、志筑が、静かに笑った。 「ああ。・・・別に、七夜でもいいけど?」 艶っぽい声の志筑。眼が笑いを含んでいる。 「へ?」 私は、意味を理解する前に。ベッドへと沈み込んでいた。 今日は、由紀たちががんばって準備してた学校でのクリスマス・パーティ。私は、当然参加するつもりだ。 でも。でも。志筑の、志筑の手が! う、うわああん。志筑、学校。学校、遅刻するってば! しかし、私の叫びも虚しく。 漸く志筑の家をでることができたのは、走っても遅刻ぎりぎりというようなとんでもない時間だった。 「志筑、ほら!早く。」 かったるそうに歩いている志筑の腕を、私はぐいぐい引っ張っていく。 ああ、もう!志筑、間に合わそうって気がないでしょう!? 起きた時間的に言えば、全然余裕で学校にこれるはずだったのに! 早足で、進む私。実は、ちょっと体がだるかったり、した。 やっぱり、昨日無理をし過ぎたらしい。 いや、私がというより。志筑が、無理させたんだけど。 なのに。志筑は私の焦りもどこ吹く風、だ。 もう。いくら途中で無理やり止めさせたからってそんなに不機嫌にならなくてもいいじゃない?だいたい、志筑が朝からあんな・・・・・・・んん? ずんずんと歩いている私の目に、何かがひらひらと舞う白いものが、見えた。 何? 私は、足を止め、空を振り仰ぐ。 え、これ・・・・・雪? 不思議なことに、晴れ渡っているはずの空から。 一片の雪が舞い落ちてきていた。 ふうわりと、私が伸ばし掌の上に、その雪が落ちる。 そうか。今日は、クリスマスだ。 私は、背後にいる志筑を振り返った。 そして、にっこりと志筑に笑いかける。 「志筑、メリークリスマス。」 「・・・・ああ。メリークリスマス。」 志筑は、静かに微笑みながら、私に答えてくれた―――――。 〜Fin〜 |
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