04. 喧々囂々、会議は荒れる


「ちょっとぉ!だから、その時間帯はうちのクラスが使うっていってるじゃん!」

「まってよ!なんで勝手に決めちゃうわけぇ!」

喧々囂々・・・・・。

ありゃりゃ。

放課後の理科室。集まっているのは24人の女子生徒。
そして、目の前で繰り広げられる激しい女同士のバトル。


壮絶、だぁ。


て。のんきに感想述べてる場合じゃなくて。
私もこれからこれに参加しないといけないんだから。

現在。ハロウィン当日に行われる各クラスの有志によるパレードの時間決定について、代表による話し合いが行われているのだ。

外部からのお客さんがくるのは午後から。
クラスで行う模擬店の宣伝もパレードでできるので、売り上げアップを狙うには、外部からのお客さんが入る午後以降がねらい目だ。

でも、あまり時間が遅すぎると、その後にある最大のイベントへの準備が間に合わなくなる。皆、告白大会にでるために、いろいろと身支度が必要らしい・・・・。

告白大会には、学校外の人々は参加できない。そのため、ハロウィンパーティの最終に行われるので、午後5:30から開始となる。

すると必然的に午後12:00〜午後4:00くらいまでに申請される時間が集中するが、各学年には8クラス。3学年で24クラスだ。一クラス15分の持ち時間なので、この時間帯に入れるのは16クラスのみ。後の8クラスは、あぶれる。

普通なら一年が遠慮するところなんだろうけど、この時ばかりは別なようである。


みんな、必死だわぁ。


この時間決定に、男子が参加したがらないわけが、なんとなくわかる。

そう。実行委員は1クラスにふたり。大抵どこのクラスも男子と女子の取り合わせなのだが、ここにいるのはすべて、女子。

毎年壮絶なバトルが繰り広げられるこの会議には、女子が出席するのが何故か通例となっている。まあ、女の子同士ならさすがに殴り合いとかにはならないだろうけど。でもそのぶん水面下の戦いが激しいのよねぇ。


「はい。提案です!」

話し合い(言い合いか?)が、白熱する中、私は手を上げた。

あ。視線が痛い。そんな邪魔するな的な眼で見ないで欲しいだけど。

「ええっと。ここは公平にくじ引きで、決めたらどうでしょうか?」

へろっと、笑ってみせる。

皆、不満顔ではあるが、どうやらこれ以上話し合っても無駄だという心境は一致したらしく、しぶしぶ私の意見は受け入れられることと相成った。



「きゃぁ。やった!!」

「うそぉぉ。あ゛あ゛、どうしよう。皆に吊るし上げられるぅぅ」


うーん。悲喜交々・・・・。


即席で作られた籤入れからルーズリーフに書かれた番号と、番号に対応した時間が書かれた黒板を確認し、女の子たちがきゃわきゃわと声を上げている。

すでに半分程が籤引きを行い、時間が決定していた。

後残っているのは・・・、午前と午後が半分ずつ位かなぁ。
そろそろ並ぶか。

そして。20クラス目。私の番が回ってきた。
午後で残っているのは、午後12:30からの15分間のみ。
後に残った4クラスの子達が固唾を飲んで私を凝視している。

視線が、痛い。


ごそっと手をいれ、初めに手に触れた一枚を引き抜く。

閉じられたその紙を開いてみると。



あ。・・・・・当たっちゃった。


黒板で、確定した時間とクラスを書いていた担当の子にぺらっと紙を見せる。

「ああ!」
「あー!もう午前しか残って無いじゃんよぉ!」

最後に残った希望の時間帯が埋まった途端。
私の後ろに並んでいた子たちから悲鳴が上がる。


そうだよねぇ。ま。でもこれも時の運だし。
こればっかりは、しょうがない。


こうして。
全部の時間帯が決定し。
女子による壮絶な話合いは幕を閉じた・・・・かに、見えた。


が。がぁ!!


話合い終了後。
理科室から出て自分の教室に戻ろうとしていた私に数人の女の子たちが声を掛けてきた。
ん?見覚えがある顔だな、と思ったのも当然で。
彼女たちは私の後に並んでくじ引きをひいた子たちだったのだ。
その時点で。いやぁな予感はしてたんだけどね。
やっぱ。案の定だったわ。


「ちょっと、あんたが余計なことするから。どうしてくれるの!」

私に声を掛けてきた勝気そうなセミロングの女生徒がいきなり、突っかかってきた。
制服の胸元に結ばれたリボンの色が、赤。どうやら同学年らしい。


ああ、もう。文句言いたくなるのもわかるけどサ。
筋違いだわよ。

そりゃ、たしかにくじ引きの提案はしたわよ。

でも、あんたらそれに同意したでしょうが!

それをいまさら文句言われても知るかっての!!


とは思いつつ。私はへろっと笑ってみせる。
ここで私まで感情的になると収拾がつかなくなるしなぁ。


「ごめんね。だけど、ああでもしないと決定しなそうだったしさ。」


両手を合わせて、ちょっと上目ぎみに謝る。

お。さすがに素直に謝られるとひくかな。

ぐっと言葉に詰まったように女の子たちが黙る。


「だ、だけど!あんたが余計なこといわなきゃ、もっと違う方法になってたかもしれないじゃん!」

うわ。身勝手。じゃあ、その違う方法とやらを提案しろよ。

だが、どうやら彼女の言葉に感化されたのか。他の子たちまで文句を言い始める。

「そうよ。だいたい、気に入らないのよね。いっっつも志筑君にくっついちゃってさ!」

あらら。そこですかい。

志筑と委員をはじめてからほぼ三週間。いままで志筑と二人きりで仕事という事態は避けられていたし、予想外に他の子の反応が少ないな、と思ってたんだけど。

やっぱり、そう思われていたのかぁ。
面と向って云われたのは、今のがはじめてだけど。


そして。その言葉が契機となり。彼女たちの文句はどんどん脱線していく。

・・・・これはもう。収拾がつかんな。

あきらめの溜息。

それを目ざとく見つけたセミロングの女の子がきっとばかりに私をにらみつけてくる。

「なによ!馬鹿にしてっ」

ええ。何故そうなりますか?
もう。思考がさっぱり理解できないわ。

ん?うっわ。まず。

セミロングの子がぶんっと手を振り上げてきた。

とっさのことに。体が反応せず。

ぎゅっときつく眼を瞑る。


ああ。女の子同士でもばっちり殴りあいになるのねぇ。

などと、ぼんやり考え。



が、いつまでまっても彼女の腕が振る下ろされることは、なかった。


「あ・・・れ?」

恐る恐る眼を開ける。おお?視界が真っ黒。・・・・ん?また?

「・・・志筑、クン」

セミロングの女の子の動揺した声。

あ、やっぱり。これ。志筑、か。

「なに、やってんだよ。」

私の前に立ちふさがり。振り上げられた手を防いでくれたらしい志筑が低い声で問いかける。


ん?ちょっと不機嫌モードか?

志筑の声に潜んだ不機嫌オーラに、女の子たちが怯んでる。

・・・・志筑。女の子に凄んじゃダメだってばさ。

しかし。そんな私の心の声は届かず。


「まだ、こいつになんか用があんの?ないんだったらさ、あんたら、うっとーしーから、消えてくんない?」


うーわー。・・・・志筑。

あ。ほら。彼女たちもう泣きそうだし。

はぁぁ。志筑の後ろで様子を見ていた私の溜息に。

セミロングの子がきっと顔を上げる。
そして。私の方に何か言いたげに口を開きかけるが、志筑の方へちらっと視線を向けると、途端に閉じてしまった。

「ね、もういこ。」

数人の女の子たちが、誰ともなく言い出す。

そして、小走りに志筑と私の横をぱたぱたと通り過ぎていった。


ん。なんだかわかんないけど。助かった。

今度は、安堵の息をはいた私に志筑が肩越しの視線を投げてくる。


「だいじょぶか?」


ええ。そりゃもう。志筑さまさまだわ。
まぁ。やりすぎの感もなきにしにあらず、だけど。


「ん。平気。たすかった。さんきゅ。・・・ちょっと、パレードの時間でもめちゃって。」

「どういたしまして。そうか、今日会議だったな。・・・あんま、無理すんなよ?」


志筑の大きな手が私の頭をぽんぽんとはたく。

んん?微妙に子供扱いか?

「大丈夫ですよーだ。・・・それより、志筑。あんまり、女の子に凄んじゃダメよ。」

「別に、凄んでないだろ。」

「うんにゃ。凄んでたね。あれは。」

「そうかぁ?」

「そう。」

断言した私に、志筑が片眉を僅かに上げた。

「・・・・善処するよ・・・」

「うしっ。じゃ、今日はもうかえろ、かえろ。」

私が力いっぱい伸びをしながら、歩きだす。

もう。今日は帰って寝る。あー、疲れた。

ん?志筑、こないのかな?

一向に足音の聞こえてこない背後を私が振り返る。

そこには佇んでる志筑。うーん。鑑賞に耐える姿だなぁ。

「うぉーい、志筑。帰んないの?」

あれ。そういえば。志筑なんでまだ学校にいるんだろ?
部活、入ってなかったよね、確か?
なんか、用でもあったのかな。


「ああ。帰る。黒河、家、駅の方だよな?」

「ん?私?そう。」

そういえば。この間、委員の仕事で遅くなったとき、志筑と帰ったんだっけ。
もっとも、由紀と副委員長も一緒だったけど。

「ふーん。今日、叶は?」

「由紀?今日は先に帰っちゃったんだよね。結構薄情者よー。」

はは、と笑う私を志筑がじっと眺めてる。

いや、ここはとりあえず一緒に笑ってほしいんだけど。


「じゃ。帰るか。」

志筑が唇の端を持ち上げ、静かに笑った。


あ。笑った。・・・うーん。志筑、たまにこんな風に笑うんだよね。
で。発見したこと。
一緒に委員をするようになって三週間。
志筑が笑うと、なんとなぁく、私の胸がざわざわする。
気のせいかも?と、初めのうちは思ってたんだけど。
なんだがだんだんざわざわが強くなるような?

うー、よくわからん!!


「ん。かえろ、かえろ。」

くるくる回り始めた考えをすぱっと切り替え、志筑に背を向け歩き出す。

今度は志筑の足音が背後から聞こえてきた。


あれ?これは、ひょっとして志筑と一緒に帰ることに?
由紀も副委員長もいないのに?
それは、ちょっとまずく・・・・ないか?

いや〜な汗をかき始めた私をよそに、教室についた私と志筑は帰り支度を整えると、しっかり一緒に歩き出すこととなっていた。


結局。その日、一緒に校門を出た私と志筑の姿は、多数の生徒に目撃されることとなり。
私は、その後由紀からたっぷり小言を言われることとなったのだった。



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