07. 七夜、思わぬ再会をする |
「七夜!」 月曜日。登校途中。後ろからぱたぱたと走ってきた由紀の声。 「あ、おはよ。由紀。」 くりっと振り向き様、笑顔で挨拶。 私に追いついた由紀の歩速が緩まる。 「おはよ。七夜。」 ほんの少し息を切らした由紀。 ちょっとタイミングを見計らいつつ、私が由紀に話しかける。 「えっと。土曜はいきなり帰っちゃって、ゴメン。」 「ああ。そうそう。びっくりしたんだから。いきなり走ってちゃうし。志筑君も驚いてたよ?」 あ。やっぱり? いきなり、由紀のこと送ったげて、だもんね。 そりゃ、びっくりするか・・・。 うーん。でもまさに千載一遇のチャンス。 志筑、云ったのかな。 ちろっと由紀の様子を伺う。 ・・・・特に、変わってるようには見えないんだけど。 うー、でも。私、この手のことに関する観察力はあんまり良く無いんだよね。 中学のときも、友達が誰それと付き合いだしたとか、あんまりぴんとこなかったし。 そして。由紀にはいままで、そうゆう気配を感じたことは、ない。 かなり、告白されたりとか、してたみたいだけど。 誰とも付き合ったりはしていなかったと、思う。 「ええと。・・・志筑、ちゃんと送ってくれた?」 「ああ。一応、駅まではね。」 にっこり笑いつつ、私の方を向いた由紀。 ・・・ん?なんか。笑顔、だけど。・・・微妙にブラックなオーラ、が? 「あ、そういえば。七夜。なんの仮装するか決まった?」 由紀が、明らかに話題を変えてくる。 あんまり、志筑のことには触れるなってこと? ・・・・うーん。これは、やっぱりなんかあったのか? つきん。 うわ。また。胸、痛い。・・・だめだわ。 やっぱり、もう志筑のことは、なるべく考えないように、しよう。うん。 「あー、仮装って全員強制だっけ?」 「そう。その様子じゃ、決まってないんでしょ。」 「実は。もう、自分の準備どころじゃないんだもん。」 「だめよ?実行委員がちゃんと守らないと。でね。提案なんだけど。」 「ん?」 「私が、用意してあげよっか?」 「え、いいの?」 「まぁ。委員引き受けてもらった借りもあるし。丁度、いま都貴(つき)姉さんが帰ってきてるの。見本品の服、だいぶあるからちょっと手直ししてみようと思って。」 ふふっと、由紀が楽しげに私の顔を覗き込んでくる。 ああ。都貴さん帰ってきてるんだぁ。 都貴さん。由紀の6才離れた姉妹で、どちらかというと美少女系になる由紀とはやや異なり、目鼻立ちのはっきりした美人で、いまアパレル関係の仕事をしている。 一年ほど前から、都心に引っ越して独立しているが、たまに実家へ帰ってくるときは手土産に見本品としてもらった服や小物なんかを持ってきて、由紀に渡していくらしい。 前に何度かあったけど、すごく話しやすくて、感じのいい人だったなぁ。 「ん。じゃあ、お願いしちゃおっかな。」 「了解♪任せて。」 どうやら、由紀の機嫌は回復したらしい。 私は、ほっとしつつも。 やっぱり土曜日に志筑と由紀に何があったのか、考えずにはいられなかった。 ああ、もうっ。志筑関連のことは考えないようにしようとしているのに! もちろん。いくらそう思ってはいても。無駄、だったけど。 「あれ?」 由紀に仮装の準備をしてもらう約束をとりつけた日の放課後。 資料にと借り出していたハロウィン系の本二冊を返却に図書室へ向かおうと、廊下の角を曲がった私の前に。 なんだか見覚えのある顔の男子生徒。 窓の桟に寄りかかりながら、なにやらぼんやりしているが、どうやら私に気づいたらしく。 こちらに向って歩いてくる。 んん?どっかで。会ったような? やや茶色がかった髪。 爽やかな笑い顔。で。人当たりが良さそうで。 犬系・・・・。 て。レトリーバーさん!? 「や♪こんにちは。・・・また、会ったろ?」 にこにこと人懐っこそうな笑顔で、私の方に軽く手を上げている。 「ああ!同じ学校だったんですか!」 つられて笑いつつ。レトリーバーさんが付けているタイの色を確認する。 青、かぁ。じゃ、二年生なんだ、この人。 「そ。こないだ言おうと思ったんだけどね。いう間もなく、行っちゃったから。君の彼氏、迫力ありすぎだよ。」 苦笑しながら、レトリーバーさん。 んん?・・・彼氏って、志筑のこと? うーん。知らない人からみれば、そう見えてたのか。 「あ、と。彼氏、じゃないです。が。この間は、すみませんでした。」 一応、一緒に連れ立って歩いてた以上。 謝っておくべきかな、と。志筑の態度。 「ああ、いえいえ。気にして無いです。・・・・というか、彼氏じゃないの?」 そんな、確認しなくとも。 そりゃ、もう。しっかり、はっきり彼氏では、ないです。 なんたって彼は、私の親友が好き、なんです。 とは。さすがに言えず。 「はは。違います。この間は、ハロウィンの買出しで。」 「ふーん、違うのかぁ。」 ええ。違うんです。 そして。 首を縦にふる私を見た後、レトリーバーさんがにこやかに自己紹介を始めた。 「ええと。申遅れましたが。僕は二年の奥丹 青(オクニ アオ)。よろしくね。」 「あ、はい。えっと、私はですね・・・」 「あ、知ってる、知ってる。一年の黒河さん、だよね。」 はや?・・・何故にご存知ですか? 「結構有名だよ、黒河七夜と叶由紀。今年の一年生はかなりレベル高し、ってさ。」 ・・・なんのレベルですか? うーん。知らないところで何故か自分の名前が知れ渡ってるってものみょーな感じ・・・。 それにしても。由紀が有名なのはわかるけど。一緒にいると、やっぱり目立つのか? 思わず考え込んでしまった私を見て。 奥丹先輩がちょっと笑いながら、話題を変えてくれる。 「ハロウィンといえば。黒河さんは、今度の『パンプキン・ジャック』に参加するの?」 は。しまった。マイワールドにまた嵌まり込むところだった。 ええっと。『パンプキン・ジャック』ね。あの告白大会の正式名称、よね。 確か、参加者の生徒に陶器で模したちっちゃいジャック・オ・ランタンが配られるから、そう呼ばれるようになったとか。 「やー、私は参加しませんよ。実行委員やってるんで、準備のほうで手一杯ですから。ジャック・オ・ランタンはもらってみたいきもしますけど。」 「え。欲しいの?」 あ、あれ。私なんかおかしなこと、いったかな。 奥丹先輩の、ちょっと驚いた表情。 なにか、まずいんですか。と、聞こうと思った、その時。 不意に、肩を掴まれた。 うぎゃ!び、びっくりした、誰よ! 驚いて、振り向くと。 私が曲がってきた角に、志筑が立っていた。 何故かむっつりと黙り込み。視線は私を通り越して、奥丹先輩に向けられている。 こ、怖っ。なんで志筑、こんなに不機嫌オーラ垂れ流しなの。 「ええっと。・・・志筑。どうしたの?」 「準備で居残ってた奴らが、今日はもう引き上げるんだと。黒河、ロッカーの鍵、持ちっぱなしだろ。」 あ。そうだった。 一応、一クラスに1個鍵の掛かるロッカーがあるのだが、現在はハロウィンの材料等が主にいれらている為、鍵の管理が私に任されたのだ。 ごそごそと制服のポケットから鍵を引き出す。 「はい。じゃ。これ鍵。」 無言で受け取る志筑。 もしかして。鍵を取りにわざわざ私を探さなきゃいけなかったから、そんなに不機嫌なのか? そりゃ。探してもらったのは悪かったけど。そ、そんなに機嫌悪くなるような、こと? ふと、視線を感じ。そちらを向く。奥丹先輩と、眼が合った。 は。そうそう。志筑も奥丹先輩にあってるんだよね。 「あの。志筑。こちら。ほら。土曜日に私とぶつかった・・・・」 「ああ。覚えてる。」 「なんと同じ学校だったんだよ。びっくりだよね。」 「・・・・知ってた。」 感情のこもらない声で志筑が答える。 って。えええぇっ!? し、知ってたのぉ? じゃ。志筑、あいさつぐらいしようよ。 ついでに、この間の態度もフォローしときなってばサ。 しかし。そんな私の心中をよそに、志筑はそれ以上口を開く気はないらしい。 「こんにちは。志筑クン?」 ああ。奥丹先輩にフォローされているし。 おまけに、志筑の態度に気を悪くした様子もなく、変わらずにこやか。 志筑、あんた何が気に入らなくてそんなに機嫌悪いの?? 「・・・・すいませんが、こいつに用がなければ、借りてきたいんですけど?」 うお゛い。私は、猫か・・・。 しかも。もう鍵は渡したから私に用はないでしょうが。 「ああ、特に用があったわけじゃないんだけどね。・・・ゴメンね、黒河さん。引き止めちゃって。」 志筑の不機嫌オーラに気づいているらしい奥丹先輩が私に向ってすまなそうに謝ってくれる。 うーん。イイヒトだなぁ。 「あ、いえいえ、全然。ええ、と。じゃ、すみませんが、これで失礼しますね。」 これ以上、志筑が何かしでかす前に、さっさと退散しよう、うん。 いや、正確には、なんにもしないんだけどね。あいさつも、フォローも。 「うん。じゃ。また。」 奥丹先輩がひらひらと手を振る。 軽く会釈した私が志筑と連れ立って歩きだすと、奥丹先輩も反対方向へ向けて歩き出していた。 |
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