09. ハロウィン前夜


「あ。いたいた、黒河さん。」

廊下を歩いている私の背後から、ぱたぱたと人のかけてくる気配。

んん?この声は、副委員長?

くりっと振り向けば。やっぱりそこには、男子としては、小柄で華奢な肩を上下させている
副委員長。走ってきたせいで、かなり息が乱れている。

「ありゃ。どうしたの、副委員長?」

ずれてきていた眼がねを押し上げながら、副委員長が一枚の名札を差し出した。

「はい。これ。」

んん?なに?これ。

十センチ四方の薄いプラスチック製。二枚に折り重なったそのなかには、一枚の紙片が挟み込まれている。

『1−A パレード隊』

私のクラス名と。・・・・パレード隊ぃぃ!?

「こ、これって。」

プレートを凝視する私に、副委員長が気の毒そうに声を掛けてくる。

「うん。黒河さん、実はパレードの方に参加してもうらことになってたんだよね。」

な、なんですと?
いっつのまにそんなことになってたの?

というか。前日だよ?ハロウィン、明日だって。
しかも、放課後。だいたい皆準備が終わって帰り始めるような時間だし。

そんな、いきなりいわれても。

そりゃ。確かに。模擬店の方の売り子は、規定分できないよ?
だって、当日だよ?実行委員の私は、やることてんこ盛りなんだってばさ。

情け無い表情で副委員長を見れば。

「えーと。その・・・・委員長が、黒河さんの仮装担当するから、パレードに参加させるように、と。」

ゆ、由紀かぁぁ!!

よもや、衣装を用意してくれるといった裏にそういう魂胆があったとは。
がくっとうな垂れる。

「黒河さんも、苦労するね・・・・。」

しみじみ呟く、副委員長。
実感がしっかりこもったその言葉に。

−−−−副委員長も、苦労してるのねぇ。

半年の間。
由紀の補佐をしている彼には、どうやら由紀の性格が、だいぶ判りかけているようだった。

二人で顔を見合わせて、ふかーいため息をつく。

どうやら。副委員長は、由紀のことに関して私と共感できる、数少ない人のうちの貴重な一人であるらしかった。

やれやれ。しょうがないね。どうせ、15分くらいだし。パレード。
いまさら、断るわけにもいかないか。

由紀の計略にまんまと嵌められ。

諦めの境地で視線をあげると。ちょっと私の様子をうかがうような副委員長。


・・・・んん?あれ?なんだろ。副委員長。・・・・何か、言いたそう、かな?


顔を見合わせたまま、ちょっと副委員長の次の言葉を待ってみる。

「あの、黒河さん、さ・・・・。」

はい?

副委員長の口が少し開かれ。言いよどんだ後。
意を決したように。

「その。志筑と、何か・・・あった?」

え゛えぇ。・・・・志筑、デスカ。

思ってもいなかった名前が副委員長から飛び出してきて。

私は眼に見えて動揺、する。

「え・・・えっと。そのっ・・・・・」

とっさに答える言葉が、まったく浮かばず。
おろおろ、きょろきょろ。

私、挙動不審だわ・・・・。


その私の様子に。副委員長が、何かを納得したように軽く頷いた。

「そっか。」

ちょっ、待って、副委員長!
何が、何が”そっか”なのぉ!!

「ここのところ、日に日に志筑の機嫌が、低下してるんだよね。」

は?・・・それと私と、どんな関係が?

わけが判らずきょとりとする私を見て。副委員長が苦笑する。

「黒河さん、志筑に何か言われなかった?」

志筑に言われたこと。
うっ。やなコト思い出しちゃった。

「・・・・鈍いって。」

あ。ちょっと、副委員長!いまちょっと笑ったでしょ!

むっとしつつ。ぷいっと横を向く。

「や、ゴメン、ゴメン。そっか。志筑、そんなこと言ったんだ。」

笑いを堪えながら謝られても誠意が感じられませんよーだ!
ふん、だ。

「えっと、その他には?何かいわれなかった?」

んん?他?・・・他に言われたこと、ねぇ。

ちょっと。考え込みながら。不意に、かぼちゃが浮かんだ。

「あ。ジャック・オ・ランタンをもらう約束をしたのかって。」

「それってひょっとして、『パンプキン・ジャック』の?」

「そうそう。それ。あれ、参加者じゃないともらえないんだよね?」

そういうと。副委員長がちょっと考え込む。
あれ。違うの??

「んー、正確に言うと、最終的にもらえるのは、参加者じゃないんだよね。」

「え?・・・違うの?あれって参加証みたいなものじゃ、ないの?」

副委員長の言葉に、驚く。

そういえば。この間、奥丹先輩に『もらいたい』っていったら。驚かれたっけ。

「あのね。あれは、告白する人が、告白する相手に、渡すんだ。」

え。・・・え、えええぇぇぇっ。そ。そうなの!?

え、え。じゃあ。私。もらいたいって。つまり、告白されたいっていってたようなもんだったわけ???

「あ。もちろん。付き合う気がなければ、受け取る必要は無いんだけど。」

「だ。だってそんなこと。どこにも書いてなかったし!」

「・・・毎年恒例のことだからね。わざわざ書く必要もなかったんだと思うよ。このイベント有名だから。大体上級生からとか、話を聞いてる子が大半だし。」

気の毒そうに私を見る副委員長。

うわ。ホントに私ときたら。もう。このまま穴でも掘って冬眠したい・・・。

「で。黒河さん、もらう約束、したの?」

「うー。約束はしてないけど。会って二度目の人にむかって、かぼちゃほしいかもって。」

「あー。それかぁ。」

ん?なにが。それ?
地の底に落ち込んだような気分のまま、副委員長を眺めれば。

一人得心がいったように、うんうんと頷いている。


な、なんだか。よくわかんないけど。
私がとんでもないことをいった事実だけは、消しようがないらしい。


あぁあぁぁ。もう。ハロウィンは明日だっていうのに。
どうして、今頃になって!

パレードには参加しなきゃいけないし、とんでもない台詞をはいているし!!


・・・・志筑とは、気まずいままだし・・・・・。


そう。私は。パレード参加より、取り返しのつかない台詞をはいたことより。

志筑との関係が気まずいまま、実行委員というつながりが切れることのほうが。
なによりも気がかりだった、のだ。


−−−−でも。志筑は。・・・・志筑は、明日になったら。ハロウィンが終わる頃には。

由紀の、彼氏になってるかも、しれない。


・・・・胸が、苦しかった。



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