10. ハロウィン、はじまる


天。澄み渡り。晴天、なり。


私の気分は、まっくろだけどね。
ふ、ふふふ。
乾いた笑いを浮かべながら。私は朝から校内を駆けずり回っていた。

いよいよ。ハロウィン当日。


もう。実行委員なんて、ただの雑用係よね。
当日になってから発生した問題、生徒同士の小さな諍い。

自分のクラスの問題だけじゃなく。
実行委員本部から連絡された場所に行き、臨機応変に各自の判断で対処すること。

なんていう。アバウトな指示を受け。なんじゃ、そりゃぁ!とは、思いつつも。
あっちに走り。こっちに走り・・・・。

結局。志筑とは別行動となり。
由紀とも、朝、登校した時にあったきりだ。

あー、そういえば。私、仮装もしてないよ。

現在、11:30。
漸く人心地ついた頃には。
周りにいるのは、狼男やら包帯男やら魔女やら悪魔やらお化けやら・・・・・その他もろもろの奇怪な仮装に扮した生徒たちばかりだった。

さすがに、周りが皆仮装していると、制服姿でいるほうがかえって目立つ。

由紀、教室いるかなぁ。
パレードもでないといけないし。そろそろ着替えよっかな。


「あ。七夜、いた!」

教室に戻りかけたところで、前から駆けて来たクラスの女の子たちに、捕まった。

「早く教室もどってきがえないと!まにあわないよ!」

がしっと両側から腕をつかまれ、ずるずる引きづられていく。

いや。そんな、ひっぱらなくても。これから戻るつもりだったし。


「由紀。七夜、つれてきたよ〜♪」

がらっと扉を開けるなり。そこには、女の子ばっかり。

皆、思い思いの仮装。

うわ。みょーな空間・・・・。

きゃわきゃわと騒いでいるその中に、由紀の顔が見えた。

「七夜。まってたわ!」

両手を広げて。私に向き直ったその姿は・・・・小悪魔?

全身真っ黒な、長袖のぴっちりとしたワンピース。スカートの裾部分だけがふんわりとひろがっている。

で。その。スカートの中から。ぷらぷら、揺れているのは。先が尖った、真っ黒な。

「しっぽ?」

凝視しつつ。確認すると。由紀がそれをひょいっと持ち上げた。

「そう。スカートの内側に縫い付けてあるの。ふふ。女悪魔♪」

うーん。内面をよく現している一品。

妙に感心している私に、由紀が紙袋を手渡してくる。

「はい、これ七夜の。」

「あ。ありがと。・・・・私も、それ?」

「まさかぁ。七夜のは違うわよ。とにかく着てみて。サイズ、大丈夫だと思うんだけど。」

にっこりと、由紀に促され。教室の片隅に即席で作られた更衣室へと向う。


−−−そして。数分後。


「な、ななななっ!なにこれぇぇ!」

由紀に渡された衣装を纏いながら。絶叫している私が、いた。



「む、無理!!こんなかっこで歩くなんて。絶対、無理!!」

教室の扉にしがみつく、私。

その手を引き、引っ張りだそうとする由紀。

「もう。往生際が悪いわよ。一度決めたことは、最後まで遣り通すのが七夜でしょ!」

えぇ!?そんなこと、いわれても!!

「その服。本皮なんだから。すっごくいいものなのよ?実行委員引き受けてくれたお礼にと思って♪ほら、サイズもぴったりじゃない。」

だ、だって。由紀、あんた、一体どおゆう基準で選んでこんな服になったのぉぉ!


黒いコーン帽。これは全然オッケー。
履き口が大きめに折り返された黒いロングブーツ。これも大丈夫。

だけど。肝心の服部分。厚手の黒皮で出来たそれは。

こ、こんな短いスカート。パンツ見えるって!!
おまけに、胸元が広く開いていて。
ブラつけてると、見えちゃうような際どさで。・・・・つけらんなかったんだってば。
胸元がこころもとないこと、この上ないぃぃ!


「ほらほら。パレード始まっちゃうわよー、さ。早く早く。」

「そうそう。七夜。いまさらよ、いまさら。さ。早く行こ、行こ!」

あ、あんたたち。人事だとおもってぇぇぇ!!

由紀に協力してぐいぐい私の手をひっぱるのは、パレードに参加する女子たち。

ぜぇったい。面白がってる。くおぅ。ほんと、友達甲斐のない!

口々に好き勝手なことを云ってくれるクラスメイトに恨みがましい視線を向けながら。

それでも。最後の踏ん張りとばかりに扉にすがっている私に追い討ちをかけるような。
軽快な電子音がスピーカーから流れ。

ピンポンパンポン。

放送が、始まる。

『1−Aのパレード参加者の方にお知らせします。予定の時刻となりました。東棟正面玄関よりパレードを開始してください。』

ピンポンパンポーン。

始まったと時と同じ軽快な電子音を残し。終了。

ううう。もう。退路は絶たれたって感じデスカ?

いっそう激しくなった催促の声。そして。
とうとう扉から引き剥がされた私は、両腕を拘束されながら歩き出し。

・・・・・もう。覚悟を決めるしかなかった。



うわ。すっごい人。

指定のパレード開始地点。既に時刻は12:30分。

パレードの参加者は15人。女子8人に男子7人。
男子の中には、副委員長の姿が見える。

あ。副委員長も参加するんだ。
うーん。由紀からの強制参加命令でもでたかな?

私の視線気づいたらしい副委員長が苦笑を浮かべる。

どうやら私の予想は当たっているらしい。
由紀ってば・・・。

私の隣で涼しい顔をしている由紀に呆れ顔を向けた後。
さらに参加者の顔を見渡す。
だが。志筑の姿は、なく。

参加、しないのかな。志筑。
実行委員だし。もしかしてパレードの方に出るのかも、と思ったんだけど。


「七夜。ほら始まるよ。いこ。」

ぼんやりとしていた私に由紀の声がかかった。

「あ。うん。」

はっとして、由紀の後を追う。

うわ。幾ら長袖とはいえ、これだけ露出度が高いと。やっぱり寒い。
ぶるり、と身震いした。



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