12. パンプキン・ジャックの告白


パンプキン・ジャックが、始まる――。


ぞくぞくと、特設会場にしつらえられた体育館へ、生徒たちが集まりだしていた。



幕の下りた舞台上。すっかりハロウィン風に飾り付けられた壇がひとつ置かれている。
さらにその上には、たくさんのジャック・オ・ランタンに囲まれた、マイク。

既に幕を隔てたその向こうには、大勢の生徒たちによるざわめきが広がっていた。

「黒河、これ。壇上に持ってって。」

舞台上の細かな最終調整をしている3年生の実行委員長が、私にろうそくを渡してきた。

「??これ、火、つけるんですか??」

「つけない、つけない。一応雰囲気。」

「はあ。・・・これで準備、終わりですか?」

「そうだな。こんなもんだろ。もう、時間だし。袖のところに参加者、集まってるか?」

そう聞かれ。舞台袖を見る。
そこには、さまざまな仮装の1年から3年までの男子生徒が集まっていた。
中には、狼男の仮面を被ったり、包帯でくるくる巻きになり目だけしかわからないような仮装もあり。

あれじゃ。名乗らないと、誰から告白されてるのか、わかんないよねぇ。

ちょっと呆れながらそちらを眺めていると、仮装集団の中から、志筑の姿が現れてた。

「参加者、全員集まりましたよ。開始しますか?」

私の方に向ってきながら、実行委員長に志筑が声を掛ける。


「おお。始めるか。じゃ、皆、幕開けるぞ。」

実行委員長の一声で、舞台上にいた生徒たちが、
参加者のいるほうとは反対の舞台袖に引っ込んでいく。

「ほら。黒河、幕が開くってさ。」

ろうそくを持ったままぼうっとしていた私の肩を志筑がぽんと叩いた。

「あ。・・・うん。そ、だね。」

・・・・はじまっちゃう。どうしよう。とうとう始まっちゃうんだ。

志筑は、参加・・・するの?

動こうとしない私を訝しげに眺めている志筑。

私は、口を開きかけ。でも、怖くて。
結局、志筑に問うことは、出来ず。


手にしたろうろくを壇上に置くと、いそいで舞台袖へと降りたのだった。




「二年三組、田中奈々さん。好きです。」

マイクを握り締め。必死の形相で思いの丈を伝える、男子生徒。

会場から大きな歓声があがる。

どうやら。上手くいったみたい、かな?

舞台上前の女生徒たちが手を叩きあいながら喜んでいる。
どうやらあの中の一人が田中奈々さんらしい。

だいたいこれで男子の半分くらい、かな。

壇上から飛び降りて、告白相手のところへ向っていく男子生徒を見送りながら、反対側の舞台裾に並んでいる男子の列の減り具合を確認する。


・・・・・んん?・・・・あれ。

列の先頭より、四、五人目。

もしかして。奥丹、先輩??・・・・うーん。でも、暗くて、良く見えないなぁ。

しかし、それでも。暗い舞台袖を、眼を凝らしてじっと見つめていると。

視線を感じたのか、相手がぱっと私に眼を向けてきた。

あ。やっぱり。

私とばっちり目があったその顔は、予想通り奥丹先輩だった。

うわっ。先輩、頭に犬耳がついている。ひょっとして、狼男なのかな?

思わず、噴出しそうになり。慌てて口元を押さえた。

だって。だってさ。すっごく似合ってる。やっぱり、奥丹先輩ってば犬系だよね。
うん。私の直感は正しかった。大型犬って感じ。

そんなことを考えつつ。なおも笑いを堪えてる私に向って。
奥丹先輩が手を振ってくる。

私も軽く手を上げて答えながら。

ふと。志筑の言葉が頭をよぎった。

−−−−あいつは、絶対に参加する。

志筑、なんでわかったんだろ??

志筑の言葉どおり。確かに奥丹先輩は、参加している。
頭の中をくるくると疑問符が飛び交う。

志筑、奥丹先輩が誰に告白するか知ってるのかな?

ひょっとして。由紀、とか?

奥丹先輩がライバルだったら、確かに志筑のあのブラックオーラも納得がいくってもんだし。
ああ。そうかも。

自分の思いつきに思わず納得して、こくことと頷いてしまう。

それにしても。志筑と奥丹先輩かぁ。まあ。ライバルだとしても。
それは、当事者同士の問題だからなぁ。
もし。二人に告白されたら、由紀はどっちを選ぶんだろう・・・・。
・・・・・これも。由紀の問題、か・・・・。


どんどん進んでいく列。結果に一喜一憂する参加者たち。


この次、奥丹先輩だ。

壇上に新たな男子が進みでて。奥丹先輩が行列の先頭になっていた。
舞台に近づき、だいぶ先輩の周りが明るくなって、今度はしっかりと顔を確認することができる。

先輩が再び私に軽く手を振ってきた。

まあ。相手が誰にせよ。いまこの場をがんばってください、の意味を込めて。
へろっと笑って見る。

その私に答えてか、奥丹先輩も満面の、笑み。
うーん。爽やか。


会場が、どっと沸く。
どうやら、また一人参加者の告白が成功したようだ。
壇上を飛び降りていく、男子。

その姿を見送りつつ。奥丹先輩が舞台へ進みでようとしていた。


が。なぜか、不自然に停止し。

あ、れ??なに、どうしたの??

じっと眼を眇めて眺めてみれば。

・・・・奥丹先輩の、後ろにいるでっかい人影・・・あれ、志筑??

そう。志筑の手が奥丹先輩の肩にかかり、引き止めていたのだ。

なんで??
早く奥丹先輩を舞台に出したげないと。
ほら。会場の生徒たちが不振がって騒ぎ出してるし。


奥丹先輩が志筑の手を振り払おうとしている。
周りにいた男子生徒たちが固唾を呑んで見守る中。

二人が何か言葉を交わし。

漸く志筑の手が下ろされた。


あ。良かった。収まったみたい・・・て、はぁ??

志筑?ええ?なんで、奥丹先輩じゃなく、あんたが??


見守る私の前で、何故か志筑が舞台上に上る。

翻る黒マント。ブラックスーツの志筑。

壇上に進む志筑の姿に。会場から女子の黄色い歓声が飛ぶ。

皆、口々に叫びながら、志筑に声を掛けている。

「きゃぁ!志筑くん!誰が目当てなのぉ!」

「あ。私、私!私にしてくれたら、今日即、深い関係でもオッケ!」

「やぁだぁ。」


うわ。怖っ!

3年女子。云うことが、流石に違うわ・・・。
一年女子は、その迫力に押されて、やや引き気味だよ。


でも。志筑、やっぱり。参加、してたんだ・・・。

そっか。志筑、とうとう由紀に告白するの、か。

ずきん。

・・・胸が、痛む。


私は。何故かそれ以上先を聞きたくなく。
くるりと壇上の志筑に背を向け。舞台袖を後にして。
会場を抜け出そうとしていた。

実行委員の仕事、私に割り振られているのは、後は片付けだけだもん。
もう。会場にいなくても、いいよね?後でまた戻ってくるし。

自分に言い訳をしながら。必死に人ごみを掻き分けていく。


背後に聞こえる、耳障りなマイクの雑音。
志筑が、マイクを持ったらしい。

志筑の声でつむがれる言葉を、聞きたくなくて。私は足を速める。



「おい!七夜、逃げるな!」

キーン。

いきなり、マイク越しに云われた言葉に、私は思わず足を止める。

な、なんで?なんで、ここで私の名前?

あまりにもびっくりし。私はしっかり志筑の方を振り向いてしまう。

壇上の志筑が。私を見据えながら。

「七夜。お前、ホントに鈍いよ。・・・云いか良く聞けよ?」

何気に失礼なこといってるし。しかも。いつの間にやら、名前呼び捨て?
まあ、別にいいけどさ。減るわけでもなし。

で。な、何??何を、聞けって?

わけが判らず、呆然と志筑を見上げる私。
その様子に、僅かに苦笑する志筑。


「・・・好きだ。」


へ?・・・・なに?・・・す・・・え?

さらにさらに呆然と、する私。

騒然とする場内。

志筑が壇上を降り、一直線に私に向って。

は。はあぁぁぁ??

思いっきり眼を見開き。まじかに迫ってくる志筑をまじまじと凝視する。

だ?だって?志筑は、由紀が???

私の処理能力からは大きく外れた事態に。ただただ立ち尽くす私の腕を志筑が掴む。

そうして。私は、阿鼻叫喚につつまれた会場から、なにがなんだかわからないうちに連れ出され。

いつのまにやら。人気の無い図書室へと、やってきていた。



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