Act.01 人魚は燃費が悪いもの?


「まったくさ。あの男最低よ!私、助けてあげたのよ?それをさ。ちょっと人になるのに手間取ってる間に、しっかり彼女なんてつくちゃって!でさ、頭に来たから云ってやったのよ!彼女の前でこのピ------(自主規制)野郎、て。その時のあいつの顔ったら。百年の恋も冷めさめよね。」

炬燵に入り、ばりばりとスナック菓子を頬張りながら。
自らを人魚と言い張る少女は、しっかりと閃の家に上がりこんでいた。

「・・・・はあ。」

同じく炬燵に入り、少女の真向かいに座っている閃が、お茶をすすりながらぼんやりと頷く。

結局あの後。少女は閃のアパートに強引に押しかけてきたのだ。
一応、六畳一間のバス・トイレ・キッチン付きであるにも関わらず、狭いだの汚いだのさんざん文句をいった挙句。
最後には、「我慢してあげる」とのたまって炬燵に潜り込み、現在の状況となっているわけである。

一応、自己紹介らしきものもしたことはしたのだが、少女の云っていることが真実とは閃には到底思えない。
いや、10人中9.8888人がおそらく信じないであろうその内容はといえば。

曰く、自分は人魚である。名前は、芽衣(メイ)と呼ばれている。
助けた人間の男に会うために、人となって海からやってきた。
しかし、人になるのには時期やそのたもろもろの問題があり、手間取っている間に助けた男には彼女ができていた。

激怒した彼女は、前途のような品の無い台詞を吐き、大分すっきりした為、人魚に戻ろうとしていた。
「月の雫」と呼ばれる星が出ている間であれば、人から人魚に戻れたらしいのだが―――――。


「あーあ。月の雫が次に現れるのは50年後。それまで、人でいなきゃいけないなんてなー。それもこれもあんたのせいだからね。」

そう。それを閃が邪魔してしまったというのだ。
だから、50年間面倒を見ろといわれたわけなのだが―――――――。

―――あ、ありえない。

至極真っ当な感想を抱き、閃はえらいものに関わってしまったと深い溜息を吐く。

「はー。」

「・・・・ちょっと、あんたちゃんと聞いてる?なんで”はあ”しか云わないわけ?」

閃の溜息を聞きとがめた少女、芽衣が、きらきらと濡れたような黒目で閃を睨みつけてくる。

云っている話の内容を無視すれば、芽衣は、大変愛らしい少女である。
年齢は彼女の言葉を信じるなら、生まれてから18年ということらしい。
ただ、閃の目にはそれよりも大分幼く見える。外見年齢は15,6というところだろうか。

いったい保護者は何をしているんだと、再び溜息がでた。

「はー。」

閃の覇気の無さに呆れたのか、芽衣がふんと鼻を鳴らした。

「―――――まあ、いいわ。それより!ちゃんと責任とって私の面倒見てよね。で、お腹すいたんだけどさ、なんかつくってよ。」

あんなにばりばりとスナック菓子を食べておいて、その台詞を吐くあたり、人魚というのは(芽衣の言葉を信じるなら)案外燃費が悪いものなのかもしれない、と思いつつ。閃は仕方なく炬燵から抜け出し、台所へと向った。


「・・・・・・・・・・・・・はぁ。」

フライパンを握りながら、最早溜息しかでない閃なのであった。



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