04. どこが、好き?


クリスマス・イブまで、後10日。
――――カウントダウンが、始まる。


「しーづーきー。」

「ん?」

「ちゃんと聞いている?」

「聞いてる、聞いている。」

「じゃ、手離してってばさ、もおぅ!」

お昼休みの屋上。流石に12月も中旬に入ると人影も無い。
それに、私と志筑がいる場所は屋上の隅。
物陰に隠れていて、たとえ人が来たとしても容易には気づかれない所だ。

その状況を利用した志筑に、現在、私は迫られている途中だった。

志筑のおっきい両手が私の腰に廻され、ひょいっと持ち上げられると、志筑の膝の上に志筑と向かい合った形で乗せられる。つまり、私が志筑の脚を跨ぐという状態になっているんだけど。

ああぁ、かなり恥ずかしいんでやめて欲しいんですが・・・。
でも、志筑あんまり私の話、聞いてない気がするのは気のせいかなぁ?
気のせいじゃない方に全額!・・・じゃなくて。

「ひゃっ!」

志筑が軽く口付けてくる。
や、やめてよぉ。ここ学校じゃないの。
ああぁ、心臓が口から飛び出していっても知らないよ、ほんとに!

「し、しづき、ここ学校だし!学校ではやめようよぉ・・・」

「嫌だ。」

・・・・嫌だ、てあんた・・・。子供じゃないんですから・・・。

呆れたような視線を向ける私に気づいたのか。
志筑がむっとしたように私の頭を引き寄せると、息がかかるほどお互いの顔が近づく。

「七夜。・・・あのな、聞こうと思ってたんだが。」

「な、なに?」

「どうして、おれの呼び方、未だに”志筑”なんだ?」

「ぎくっ」

そう。ハロウィンのとき、一回だけ志筑の名前呼んだんだけど。
あの時限りで、それからは、しっかり”志筑”に戻っちゃってる。

「いや、ぎくってお前・・・」

「――――だって。恥ずかしい、んだもん。なんだか、すっごく恋人同士になりましたー、て感じじゃない?周りにアピールしているっていうか。」

「恋人同士だろが。」

「や、そう・・・なんだけど。んん、なんていうかなぁ・・・。」

「とにかく。せめてクリスマスまでには呼べるようにしといてくれ。」

「――――なんで?」

「ベッドの上で”志筑”とは呼ばれたくない。」

「!?」

な、何いいだすのよ!?

真っ赤になっておろおろする私の反応を見た志筑が、ニヤっと笑う。

は!・・・・からかわれてる・・・・・。むぅ。

は、腹立つ、腹立つ、腹立つ!!
なんでこんなに余裕ありげなのかな、この男は!

あ・・・。嫌な考えが浮かんじゃった・・・・。

志筑が余裕ありげなのってやっぱり経験の差、だよね。
今まで、志筑が女の子と付き合ってなかったわけないもん。
志筑にとっては、クリスマス・イブに女の子と過ごすなんていうのは、今までにも何度と無くあった夜、なんだ。

あうう。考えるんじゃなかった、そんなこと。

はぁ。今更、言っても仕方の無いことなのになぁ。
どうして、こんなに気になるんだろう?

これって・・・やっぱり、嫉妬って奴?
うーん。人生ではじめての経験だから、比較対照がないのが辛いところだわ。

私の恋愛系感覚っていまいち信用できないってのもあるんだけど。

なーんか、だんだんむかっ腹が立ってきた。

「てやっ」

掛け声をかけ、私は思いっきり志筑のほっぺを抓ってやろうと手を伸ばす。
だが、その手は、志筑の頬に到達する前に、やすやすと志筑の手に絡め取られてしまった。

私の次の行動なんてわかってたというような志筑の対応に、ますます腹が立つ。

「・・・・志筑、志筑、志筑、志筑!」

まだ笑いながら私を見ている志筑に向けて、思いっきり苗字を連呼、した。

ぜっぇったいに、志筑の名前”連”なんて呼ばないんだから。

「お前、外見に似合わず意外と頑固だよな。」

はー、と諦めたように息を吐きながら、志筑が呟く。

私は、むぅ、と口を引き結んだままじっと志筑を見つめた。

頑固さに、外見なんて関係ないし。
だいたい私の外見、どんなふうに見えてるの?
素直に何でも言うこと聞いちゃうような感じだとでも?
それは残念でした!

て。あ、れ。・・・じゃ、志筑って、私のどこが好きなんだろ?
そういえば、聞いたことなかった。スキだとは、言われたけど。

思い返せば。志筑には、隙だらけとか鈍いとか・・・そんなことしかいわれていない気が。

告白はされたけど、なんだが有耶無耶の内に返事を返しちゃってたから、私のどこをどう気に入ったのかなんてちっとも聞けなかったし。

「七夜?」

私の思考をさえぎるように、志筑の窺うような声が響いた。

私がむっつり黙りこんでしまったので、余程腹を立てたのかと思われたらしい。
まあ、実際腹も立ってたんだけど。
でも今は、それ以上に気になることができた。

「志筑!」

勢い込んで志筑を呼ぶ。

「まだ、言うか・・・」

先程の続きだと思っている志筑が呆れたように返してくる。

「ああ、や、そうじゃなくて。あのね、志筑、私のどこが好き!?」

「は?」

「だから!私の、どこが好き?」

「――――また、お前は唐突に・・・」

「いーから。ほらほら。答えて!」

急かす私。志筑がやや考え込む。
・・・考えないと思いつかんのですか。悲しくなるし。

「・・・志筑?」

答えようとしない志筑にちょっと、いやかなり不安になりながら答えを待つ。

そして、しばらく黙り込んだ後、やっと志筑が口を開いた。

「――――内緒。」

「!?・・・・え゛。・・・な、なにそれぇ・・・ん、ん―――っ」

抗議しようと口を開いた途端。掴まれていた腕を引かれ、志筑に口付けられていた。

ちょ、ま・・・、ご、誤魔化すつもりだ、絶対!

志筑のあきらかな意図に気づきながらも、どんどん深くなってくるキスに頭の芯がくらくらしてくる。

志筑の舌に口腔内を犯され、次第に息が上がってくるは。
「ん、・・・う、ん」なんて、なんだが甘い声なんて漏らしちゃったり。

うあぁ、私流されてる、流されてるよ!


しかし。そうは判っていても。結局、私は志筑に逆らえず。

私の疑問には答えてもらえないまま、昼休みは終了してしまったのだった――――――。



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