05. ハロウィンのケリをつけよう?


うう。しっかりさっぱり流されてしまった・・・・。
志筑の卑怯者ぉ・・・。

しかし、一度の失敗にめげず。
私はあの日から連日。志筑を問い詰めていた。

そして、今日も今日とて、お昼休みの屋上で。
私は志筑に向って答えを迫っていた。

だって。だって、さ。ここまで隠すなんて、ちょっと変だと思うし。
いったいどんな理由で私を好きになってくれたのか、ものすっごく気になる。

でも、そんな私の努力も虚しく、志筑は一向に答える気配を見せてはくれず。
しかも、しかも!

「し、志筑。あ、ちょっと待っ・・・ん、うぅ・・・」

私の頭を強引に引き寄せた志筑が。またまた唇を重ねてきて。

あぁ、もう!また、誤魔化す気!?
ご、誤魔化される私もどうかとは思うんだけど。

でも、志筑のキス。上手いんだと、思う。
いや、志筑が初キスの相手だから本当にそうなのかはわからないんだけど。

頭の芯がくらくらしてきて、動悸が激しくなってきて。
体の奥が、熱くなってくる。

だから、志筑が私を離した後に。

「で?なんだっけ?」

なんて、白々しく問いかけてきても、どうにも私の頭は上手く働いてくれず。

そうこうしている内に、お昼休みの終わりを告げるチャイムの音が無常にも鳴り響く、というパターンが、連日繰り返されているのだった・・・。




「うーん。どうしたら志筑から話を聞きだすことができるのかなぁ・・・・。」

放課後。人気の無くなった渡り廊下で私は窓の外を眺めながら重ーい溜息をついていた。

はぁ。溜息もでるわ。まったく。

クリスマスまで後五日。
私は志筑には見事にかわされまくって現在に至っている。

今日は用があるといって志筑は先に帰ってしまったし。
由紀もクリスマスイベントの準備で忙しく動き回っていて相談できないし。
そして、私は何となく帰るタイミングを逃し渡り廊下でぼんやりと校舎の裏庭を眺めている、と。


「黒河さん?」

不意に背後から名前を呼ばれた。

「んん?はい?」

声のした方へ顔を向ける。
そこには。
やや茶色がかった髪。
爽やかな笑い顔。で。人当たりが良さそうで。
犬系・・・・。

あら。随分久しぶりに会った気がする。

「・・・・奥丹、先輩。」

私が名前を呼ぶと、奥丹先輩が視線の先でにっこり笑う。
すっと私の傍に近づいてくる先輩。

「どうしたの、こんなところで考え込んで。」

やさしく、問いかけてくる。
あー、ホントに人当たりのイイヒトだなぁ・・・。
でも、私の考え事はちょっと先輩に相談できるような内容じゃない。
とりあえず。先輩の質問には答えず、挨拶してみる。

「あ、えっと。・・・・こんにちは。」

「はい、こんにちわ。で?どうしたの?」

う。質問に答えないとダメなのね。
にっこり笑いながらも、微妙に有無を言わさぬ雰囲気が漂っているような・・・。

でも。あんまり人様にいうような内容ではないのですよ、先輩。


「いえ。何でも・・・・。」


「何でもって雰囲気でもなかったようだけど?志筑クンと何かあったのかな?」

「えっ・・・。」


「図星?黒河さんて、ほんと表情豊かだよね。」

「え゛!・・・そ、そうなんですか?」


「あはは。自覚無いんだ。志筑くんが無表情だから対照的だよね。」

「志筑、無表情・・・ですか?」


「うん?そうだね、一人でいるときは表情変わらないねえ。」


そおかなぁ。志筑、確かに仏頂面ではあるけど。
でも、表情・・・あるよねぇ。
ちゃんと笑うし。不機嫌になるし。

考え込んでしまった私を見て、奥丹先輩がにこやかに笑った。

「黒河さんの前では、違う?・・・だから、志筑くんは黒河さんを選んだろうけど。」

「え?」

意味が、わからないんですが?

首を傾げる私に、奥丹先輩がさわやかな笑顔を向けてきた。
うーん。好青年な笑顔だなぁ・・・。


「あのさ。ハロウィンの時、僕が告白しようとしていた相手。つまりジャックをあげようとしていた相手、実は、君なんだよね。」

「はあ。そうなんですか。」

――――ジャックをあげようとしていた相手、君なんだよね。

・・・んん?・・・・あれ?・・・・なんか今、さらりとすごいことを言われたような・・・・???
ま、まさか・・・ね?聞き間違いよね?

だが、私の視線の先では、奥丹先輩が笑いながら頷いた。

「そうなんです。つまりね、僕は君が好きなんだよ。」

「!?・・・・っ!!!!」

え゛!?えええええ!?

「”パンプキン・ジャック”の時、志筑クンが僕を引き止めたろ。それは、こうい訳だったってこと。あの時、”そんなに誰かが黒河さんに告白するのが嫌なら君がしたら”っていったんだよね。あはは。」

あはは。て。せ、先輩ぃぃ!
ほ、ほんとですか、それ・・・。
あの時そんな話をしてたんですか!?

あまりに突然すぎる奥丹先輩の告白に、私の頭がホワイトアウトする。

あぁ、なんだか頭の中に雪でも降ってるみたい。
いや、むしろ降っているって言うか。吹き荒れてるってほうが近いか・・・。

「でも、やっぱり、惜しいことしたな。志筑くんに譲るんじゃ、なかった。たぶんね、志筑クンが君を好きな理由、僕と同じだと思うんだよ?」

「え!?」

「あ、ひょっとしてさっき考え込んでいたことに関係ある?」

す、鋭い。・・・なんで判るんだろう。

「・・・・・・・。」

黙り込む、私。そんあ私に向って、誘惑するかのような奥丹先輩の笑顔。

「知りたい?」

「そ、それは・・・・うーん。」

やっぱり。これも志筑の口から聞きたい。
でも、あれだけ迫っても口を割らない志筑から、果たして聞きだせる日が来るのかどうかは怪しいしなぁ・・・。ああ、でも。ホントに奥丹先輩の理由と志筑の理由が一緒かどうかはわからないわけだし・・・・。

「黒河さん。あのね、志筑くんが君を好きな理由はね・・・」

「え、えっ!?」

私が返事を返す前に、奥丹先輩が話を先に進めてしまう。
いや、待ってください。私、まだ聞くとは言ってないんで。

でも、どうやら奥丹先輩は私の返事を聞く気はないらしく。
内緒話をするように、そっと私に顔を近づけてくる。

うわ。まってくださいって。まだ、聞くかどうかは考え中でして。

んん?・・・・え?



「ごちそうさま。」


―――――え・・・・・。
い、ま・・・・唇に・・・何か、触れて・・・・・。

奥丹先輩に・・・・キス・・・・され、た?


未だに自体が飲み込めず。呆然と佇む私に対してにっこり微笑んだ奥丹先輩がのたまった。

「黒河さん、隙だらけだね。」

ふつん。私の中で何かが壊れる。

「な、なにすんですか――――――っ!」

絶叫、していた。

しかし。ごぉお、と火を吹かんばかりの私の勢いにも、まったく奥丹先輩は怯まない。
それどころか、さらに笑みを深くすると、さっと踵を返して私から遠ざかっていく。
そして、十二分に距離をとってから、ちょっと振り返ると手を振り。
そのまま、私の視界から消えていってしまった。

「――――――。」

愕然と、する。

な、なにが起こって?奥丹先輩にスキだと云われ。志筑が私を好きな理由が奥丹先輩と一緒で?
それでもって。奥丹先輩に・・・キスされ、た。

「し・・・づ、き。」

や、だ。やだやだやだ。
志筑以外に、キスされた。

・・・・気持ち、悪い。

私は、ずるずるとその場にへたり込み、ぐいぐいと唇を制服の袖口で擦る。
いつの間にか、熱くなった目頭からぽろぽろと涙が零れ落ちていた。



どのくらい、そうしていただろうか。

既に、最終下校時刻を告げる放送が流れ始めている。

もともと放課後になるとほとんど人の通らない場所だけあって。
私はかなりの間そこに座り込んでいたらしい。

どうしよう。

少し落ち着いてきた私がまず考えたのは、志筑に告げるかどうかということ。
正直に言ったほうがいいのはわかってる。
でも、前に”隙だらけ”といわれていた。なのに、今回のこの事態。

志筑に、呆れられ、る。

――――志筑に、嫌われるのが・・・怖い。

いろいろな考えが頭の中をぐるぐる巡るが、結局は堂々巡り。

「どうし、よう。」

ぽつりと呟き、私は窓の桟に手を掛け、よろよろと立ち上がった。

ふと外に目を向けると、既に陽が暮れかかっていた―――。



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