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Stage.02 2006/12/12(Tue) 00:28
「よー、誉、目ぇ覚めた? いやー婚約おめでとう、弟として心からお祝いすっからさー、――ぶッ、ぐはははははははっ、って、いてぇっ!」

憮然とするあたしの前で馬鹿笑いする弟のむこうずねをこれでもかってくらいの勢いでけりつけてやった。

リビングのソファで目覚めた直後、朦朧とするあたしを待っていたのは、にやけた愚弟のふざけた物言い。
これはもうケリの一発や二発当然ってものだ。

「――馬鹿なこと言ってないで、あの子、帰ったの?」
「あー、帰ったよ」

あたしに蹴飛ばされたむこうずねを押さえながら悶絶しつつ、恨めしげに見上げてきた章吾が少し声のトーンを変えて事の次第を話し出した。
愚弟の馬鹿らしい合いの手を省くとつまり、件の王子様はなんと吃驚お姫様抱っこであたしを家に連れてきた後、章吾に引き渡し、悄然とした面持ちで引き上げていったらしい。
それは確かにプロポーズした女が目の前で白目をむいて倒れたんだから吃驚するだろうけど。
しかも、彼はどうもあたしが嫌がってぶっ倒れたのではないかと思っている節があった、とは章吾の談だ。

「いや、でも真面目な話、どーすんのよ、プロポーズ」
「――どうするもこうするも、受けるわけ無いでしょ」
「あー、だよなぁ。誉、生粋の年上好きだもんな。やっぱ無理か」
「やっぱ無理かじゃないわよ、当たり前だわ。幾ら大人びて見えてもあの子、十七でしょーがっ」

ぎろりと睨みつけるあたしに、章吾がぽりぽりと頭をかきながら、そうだよなぁ、なんて暢気に呟く。

「それにプロポーズって言っても本気じゃないんじゃないの? あたしが熱出したからその責任を感じてとか」

にしても、プロポーズは行き過ぎだと思うけど。だけど生真面目そうな子だったら、もしかしてそういうことも在り得るかも。
本来は何か別口の目的で会いに来たのに、うっかり口を滑らせて熱が出たなんてあたしが言ったもんだからああいう流れになった、とか。

「いや、それは無い」
「どうしてよ」

やけにきっぱり否定されて口を尖らせたあたしに、章吾がにやりと笑う。その上で実に血縁者甲斐の無い台詞を吐いた。

「俺相談されてたもん、誉に惚れたって」

「アンタね、だったら止めるとか何とかしなさいよ、このお馬鹿」

地底人も吃驚な地の底を這うような声で恨み言を並べ、章吾を睨め付ける。

「だってさ、すんげぇ真剣だったんだよ。ちょっとぐらい考えてやってもいいんじゃねーの? 結構なお得物件だぜ、あいつ」
「馬鹿言わないでよ、年下なんて絶対ダメ、金輪際嫌だったら嫌なの」

ぷいっと顔を背けたあたしと章吾の間に、微妙な空気が流れた。

「――誉、お前さ、ひょっとしてまだアレ、引きずってんのか? もう忘れろよ、いい加減時効だろ」

この愚弟は、時にあたしの逆鱗をピンポイントで撫でてくれる。

「――っ、うっさい! とにかくもうあの子には会わない、家につれてくるのもダメだからね!」

「やだよ、あいつ俺の友達だもん。誉がなんて思ってようが家に呼ぶし、これからも友達づきあいするから」

「勝手にしたら! でもあたしは会わないわよっ」

手にしたクッションを章吾に向けて放り投げ、ソファから腰をあげると足早にリビングから逃げ出した。
後ろ手で乱暴に閉めた扉が背中でビリビリと振動する。

年下なんて――そうよ、年下なんて、もうこりごりなんだから。

もうすっかり痕跡を消したと思っていたはずの心の古傷が、ずきんと痛んだ。


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